ゲイの俳優はストレートの役を演じられない!? Newsweekが巻き起こしたゲイの芸問題
June 7th, 2010 by Lil Akim
ことの起こりは4月26日にNewsweek.comに掲載された1本の記事。
拘束衣を意味するStraitjacketと、ヘテロセクシャルを意味するStraightをかけた「ストレート・ジャケット(Straight Jacket)」というぞっとするタイトルのその記事は、ゲイの俳優がストレートの役を演じることに対して大きな疑問を投げかけていた。
要するに、ストレートの俳優がゲイを演じて成功している例はごまんとあるが、その反対はほとんどない、ゲイだとカミングアウトしている俳優がテレビや映画や舞台で異性の恋愛対象となるストレートの役を演じても、観客にそのキャラクターを信じさせるのは難しいし、成功しているのは特別の場合だけだ、という内容。
タイトルはさしずめ、ゲイの役者がストレートの衣装を着ても、拘束衣を着ているように鈍い動きしかできないよ、ということか。
記事を書いたラミン・セトゥーダは、自身もゲイであることを公にしているライターだ。
その彼が記事中成功していない例としてあげたのは、カミングアウトしているブロードウェイゆかりの2人の俳優と彼らの最近のお仕事。
一人は、NHKでも放映されていたNBCのコメディシリーズ『Will & Grace』(邦題「ふたりは友達? ウィル&グレイス」)で、ゲイゲイしいゲイのジャックを演じて主演俳優より人気者になったショーン・ヘイズ。
ヘイズは現在、1960年のビリー・ワイルダーの映画『アパートの鍵貸します』を元にしたミュージカル『Promises, Promises』の、ブロードウェイでは約40年ぶりの上演となるリバイバル版に出演中だ。

密かに思いを寄せる同僚の女性が上司の浮気相手だとはつゆ知らず、昇進目的で自分のアパートを上司の浮気用に時間貸しするという、映画ではジャック・レモンが演じた間抜けなちゃっかり者を演じ、今年のトニー賞候補にもなっている。
来る6月13日の授賞式ではホストも務める予定だ。

PHOTO : Joan Marcus
そしてもう一人は、2007年のトニー賞受賞作品『Spring Awakening』に主演し、トニー賞にもノミネートされたジョナサン・グロフ。現在彼はFox TVで放映中のミュージカルコメディドラマ『Glee』で主人公レイチェルの恋愛対象を演じている。
問題の記事は、『Promises, Promises』でのヘイズを「ぎこちなく偽善的で、まるで彼が何かを隠そうとしているかのよう。その何かというのはもちろん(ゲイである)彼自身だ」とし、『Glee』のグロフを「平均的なシアター・クィーン(舞台で主役をやりたがるディーバな女性)のように見え」「実は隠れゲイという役なんじゃないかと思案してしまう」と評している。
反対に成功している例として『Sex and the City』シリーズのミランダ役としておなじみのシンシア・ニクソンをあげているが、現在女性と交際中のニクソンがミランダ役として観客に受け入れられている理由は、ミランダを演じ始めた当時のニクソンは男性と交際中だったから、というもの。
また、最近ありとあらゆる授賞式のホストに引っ張りだこで、ホストをしない場合でもオープニングナンバーを歌って踊るニール・パトリック・ハリスは、CBSのシットコム『How I Met Your Mother』(邦題「ママと恋におちるまで」)でストレートの役を演じているが、戯画化されたキャラクターだから観客に違和感を与えないのだそうだ。
セトゥーダのこの記事に対し、いち早く反応したのがブロードウェイの大スター、クリスティン・チェノウェスだった。
現在ヘイズと共に舞台に立ち、映画でシャーリー・マクレーンが演じた、男に捨てられて自殺を図る女性フランを演じているチェノウェスは、『Glee』にもゲスト出演している女優。
くだんの記事のコメント欄に「こんなホモ恐怖症的な記事をNewsweekが掲載しているのを見てショックを受けた」という長文のコメントを残して話題になった。
そのせいもあってかことはさらに大きくなり、今度は『Glee』のプロデューサーがオープンレターで、「Newsweekが謝罪文を掲載するまでNewsweekをボイコットしよう」と呼びかける事態にまで発展する。
セトゥーダは、自分の記事が巻き起こした騒動に驚いたのか、その後フォローアップの記事とテレビ出演で自らの意図の弁解を試みた。彼が言いたかったのは、こういうことらしい。
「ジョージ・クルーニーのような俳優がもしも明日ゲイだとカミングアウトしたら、観客はその後も彼をヘテロセクシャルの主演男優として受け入れるだろうか? それはわからない。無理かもしれない。ゲイだと公言している彼のような俳優は居ないという事実が、何かを示しているんじゃないか?」
はて、何を示しているのだろうか?
わたしにわかるのは、ゲイであることを隠さなければ役がもらえなかった時代が随分と長かったということだ。
それから、例えクルーニーが「僕はゲイです」と明日発表したとしても、ヘテロセクシャルでメスのわたしは、ゲイのクルーニーが主演する男女間の恋愛もの映画を見るのに全く何の問題も感じないということ。
いや、それはちょっとだけ嘘か?
クルーニーの私生活の恋人になるチャンスが全く無くなってしまうというのは、その座を虎視眈々と狙っているわたしにとっては老後の計画が大きく狂う大問題なのだから。
しかし、作品を見ることに関して問題が無いのは間違いがない。
だいたい昨日まで、素っ裸のヴェラ・ファーミガとクルーニーが汗だくになってホテルの床に転がっているシーンを違和感無く大画面で見ていたのだ。それが今日になって急に違和感を覚え始めるとは到底考えられない。
一旦物語の中に入り込んでしまったら俳優の私生活などいちいち気にしちゃいないのが観客というもの。
それだからこそ、映画版の『ヘアスプレー』に登場する女装したジョン・トラボルタを、お年頃の娘を持つ母親で、なお且つクリストファー・ウォーケンの妻としてすんなり受け入れるのだし、ブロードウェイの『屋根の上のバイオリン弾き』の舞台でゲイのハーヴェイ・フィアスタインがミルク屋のテヴィエを演じるのを見ても、彼がゲイであることなどあっと言う間に忘れ去り、ユダヤ教の戒律を守ろうとする子だくさんの父ちゃんとして受け入れるのだ。(もっとも、むだ毛処理されたテヴィエのスネを見て、フィアスタインがゲイであることを一瞬思い出したが。)
今回やり玉にあげられたヘイズは、かつてあるインタビューでこんなことを話していた。
「ゲイのキャラクターを演じるときは、なるべく信憑性を持って演じたい。ストレートのキャラクターを演じるときも、なるべく信憑性を持って演じたい。だから、観客が僕の私生活について知らなければ知らないほど、キャラクターにより信憑性を持たせることができる。」
長年自分のセクシュアリティを秘密にはせずとも、わざわざご大層に「宣言」しなかった彼が、今年の3月に雑誌The Advocateで公に「カミングアウト」した直後、「お前は私生活を公にしたからストレートのキャラを演じても、もはや信憑性がない」と名指しで言われるとは、なんとも皮肉なお話。
しかし、ヘイズはもちろん、多くの人間が知っているように、役者が演じて売り込もうとするキャラクターを観客が買うかどうかは、役者がゲイかストレートかには関係がなく、役者の芸が上手いか下手かだけが鍵となる。
俳優は、過去に演じた役のイメージや、私生活でのイメージを払拭できるような演技を提供できるかどうかで評価される。
わたしはまだ『Promises, Promises』もグロフが出演する『Glee』のエピソードも見ていないが、それでもこれだけは断言できる。
『Promises, Promises』でヘイズがチェノウェスに恋するのがもし嘘くさく見えるとすれば、それは彼が私生活で男性とデートしているせいではない。
『Promises, Promises』のプロモ動画や舞台写真を見れば一目瞭然。
チェノウェスのカツラのせいだ。
・Newsweekに4月26日に掲載されたラミン・セトゥーダの記事「Straight Jacket」
・クリスティン・チェノウェスが残したコメントが読めるサイト(5月7日に残された元記事へのコメントは、本日現在Newsweek.comでは削除されていて読めない。)
・『Glee』のプロデューサー、ライアン・マーフィーのオープンレターが読めるサイト
・ラミン・セトゥーダのフォローアップ記事「Out of Focus」
・『Promises, Promises』 Official Web Site
http://promisespromisesbroadway.com/
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