チェルシーの結婚
August 2nd, 2010 by Natsu Furuichi
ビル・クリントン元米大統領とヒラリー・クリントン国務長官の一人娘、チェルシーの結婚式が7月31日、ニューヨーク市から2時間ほど北にあるラインベックの町であった。
日取り以外は一切非公表を貫きながらも、想定3百万ドルとも噂される贅沢な催しは多大な注目を集めていた。
普段なら結婚にさほど憧れも抱かずにいるこの私も、今度ばかりは特別な思いで見ていた。
そもそもアメリカ市民がチェルシーに興味を持ち始めたのは1992年、彼女の父親が大統領選挙に当選したときからだろう。当時、彼女は12歳だった。

第一期就任当初のクリントン米大統領とチェルシー
それから8年間、誰もがもがく思春期を大統領夫妻の一人娘は世間の目の前で過ごした。
美人とは言いがたいが(当時は「みにくいアヒルの子」といったタブロイドの見出しも少なくなかった)、頭が良くて気だてがいい。
娘のプライバシー保護と教育に人一倍努めた両親の甲斐あってか、アメリカ世間はこぞって彼女をこう評価する “She is a Good Girl.” (「彼女はいい子だ。」)
実はこのフレーズ、私にも覚えがあった。
一人娘で教育を重んじる両親。食卓を囲んで頻繁に繰り広げられる様々な議論。彼女のプロフィールを読む度に自分と重なる面がある。それもお互い同学年であるということ以上に。
一人っ子というのは基本的に大人と接する時間が多いせいか、幼い頃からしっかり者に観られる傾向がある。
そのうえ、良くも悪くも両親からの注目を一身に浴びるから下手にいたずらはできない。我が家のように親がちゃんとしている場合はなおさらである。
だから私も子供の頃からよく聞かされた−−「いいお嬢さんね」
世の中では足を踏み外す機会があちこちに転がっているけど、「いい子」でいれば大丈夫だよ。そういう風にも聞こえた。
アメリカであれ日本であれ、特に女性は自分の前の世代のバックラッシュを生きる傾向がある。
ヒラリーも、うちの母も(3歳差でヒラリーが若い)高学歴のうえ自身のキャリアをしっかりと築いて来た。
ふたりともベビーブーマー世代に育ち、互いに専業主婦だった母親に、それまでは叶わなかったキャリアーウーマンの夢を託されていた。
けれどやがて、この世代はそれぞれのグラスシーリング(見えないガラスの天井)にぶつかる。
一見キャリアにおいてはパイオニア的存在にあっても、結局は男性と対等に扱われなかったり、結婚や子育てでキャリアを諦めざるを得なかったり、もしくは家庭を持つチャンスを逃したり。
チェルシーや私はそんな中で生まれ育った。教育より大切なものは無いと常に言い聞かされ、やがてキャリアを気づくことを当然だとされながらも、それに伴うチャレンジも痛いほど知らされている。
女性の地位が上がるにつれ,変わっていく結婚や家庭の力学。様々なツールを与えられ,選択肢も増えることによって、欲しいもの全てを手にしなければいけないようなプレッシャー。
その昔、女の憧れとされていた結婚が今では子供のうちから妙に現実的で、非ロマンチックなものにしか感じられない。

新婚当時のクリントン夫妻
“Be a Good Girl” (「いい子でありなさい」)と具体的に言われた記憶も無いが、Good Girlでさえいれば人生全てがうまくいくと漠然と思っていたのは覚えている。
しかし、今の現実を見渡しても、果たしてGood Girlであることにこだわるメリットなどあるのだろうか。
それどころか、ひょっとしたら逆にばかを見ているのではないかと思うことさえあったりする。
私たちが大学に入学したばかりの頃、当時まだ大統領だったクリントン氏のホワイトハウス・インターンだったモニカ・ルインスキーとの浮気が発覚し、政治的大問題へと発展したことで、連日メディアは盛り上がっていた。
尊敬すべき父親が醜態をさらされ、その結果母親と両親の結婚生活までも世間にさらされ、Good Girl はいったい何を思ったのだろうか。
社会に様々な意見が飛び交う中、ヒラリー夫人はビル氏との結婚を貫き、Good Girl のチェルシーはそのまま大学生活を続けた。
いろんな意味でこのモダンな家族がその危機を、昔ながらの家庭の絆を重んじる価値観で乗り切った風が印象的だった。

(Photo: AP/Susan Walsh)
父親が任期を終えた後も、Good Girlはこのニューヨークでひっそりとしかし確実に自分のキャリアを築いている。そしてその横にはもう何年も、 同じく父親の政治的スキャンダルを過去に経験し乗り越えた、しかしいかにも普通な銀行員のGood Boyfriendをつれながら。

ニューヨーク在住のチェルシーと婚約者のマーク・メズヴィンスキー氏
それだから余計に今度の豪華な結婚式の噂を耳にした時にはちょっと意外だった。
これまでは、派手な問題児の両親の陰に隠れおとなしくいい子のチェルシーが500人もの親戚、友人を招待して自分を祝福する盛大なパーティーを催そうとしている。
普段はBad Girls達がメディアで幅をきかせているこのアメリカで、このGood Girlは現代のキャリアや結婚のリアリティーに幻滅せず、押しつぶされず、理想の結婚式を挙げるのだ。
お金さえあれば誰でも...とお思いの方もいるだろう。

(Photo by Genevieve de Manio via Getty Images)
ヴァージンロードを歩くクリントン元大統領と花嫁姿のチェルシー
この日のために二人ともダイエットに励んだと言う
けれど、fairytale wedding (おとぎ話のような結婚式)というのは世間に希望と夢を与えるもの。
これまで俗にそうだと言われて来たダイアナ妃や松田聖子の結婚式に夢も希望も見いだせなかった自分が、ほんの少しでも自分を重ね、同じ現代のGood Girlとして希望を持たせてくれたのだ。
そしてそれは、かつてそのティーン時代にみにくいアヒルの子と嘲笑されたGood Girlが正式に白鳥へと変身を遂げた瞬間でもあった。

(Photo by Genevieve de Manio via Getty Images)
それぞれバーバリーのタキシードとヴェラ・ウォンのドレスに身を包む新郎と新婦














