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  • No.43 ダンカン・タッカー監督の爽快なるデビュー

    August 21st, 2006 by Yuka Azuma

    日本で映画『トランスアメリカ』がヒットしたと聞いて喜んでいる。 「いまから会えないかな」
    ダンカン・タッカーから自宅に電話があった日のことを思い出す。
    インタビューを申し込んでいたものの『トランスアメリカ』の監督から直接電話をもらうとは驚きだ。
    彼と3日後に会う約束をした。こちらには心の準備というものが必要だ。

    住処からすぐ近くのウェストビレッジのカフェを指定したダンカンは、黒のショルダーバッグの中にこっそり子犬をいれてやって来た。

    ダンカン・タッカー


    バッグをそっと床に置き、衛生上ペットお断りという環境の中で穏やかに微笑んでいる。ほんのランチ時間でさえ、愛犬を家にひとりにしておきたくないという優しい男なのだ。

    子供がもうすぐカルフォルニアで産まれるためニューヨークを発つ直前だという彼をつかまえられたのはラッキーだった。素顔の彼は優しそうで良いお父さんになりそうだ。
    あとから彼はゲイだと聞いて心底びっくりした。なんか違うような気がするんだけど。

    自分は社会にフィットしない、はみ出し者のように感じたことはないかとしつこく聞いてしまったけれど、それはまったくゲイのことなど頭になく質問したことだった。
    ゲイでもストレートでも構わないが、なにしろこの紳士とってもチャーミング。男だけのものにするにはもったいない。

    そうそう、 彼の愛犬も登場する彼が執筆・監督した『トランスアメリカ』は地味な映画なのだ。低予算でね。撮影は友達の家や兄の車とかを使ってやりくりした。
    でも、ダンカンははっきりと言い切った。

    「この作品は『ロード・オブ・ザ・リング』のようなアドベンチャー映画にしようと思った。マジックの要素と予算を抜いた『ロード・オブ・ザ・リング』にしようとね」

    え? 思わず、耳をうさぎのように立てる。

    「じつに『トランスアメリカ』と『ロード・オブ・ザ・リング』は似ているんだ。共にファンタジー・アドベンチャー・エピックだ。

    指輪を安全な場所まで届ける旅路にガンダルフという指導者に導かれるフロドのように、この映画ではあのセラピストが彼女を危険な世界へと送り出していく。彼女には手放したい貴重な宝、つまり自分の息子がいる。それは『ロード・オブ・ザ・リング』での指輪に値するものだ」

    監督、オタクかー?。
    『ロード・オブ・ザ・リング』や『マトリックス』のファンだというダンカンの長編デビュー作。
    まずはアウトサイダーのストーリーにしたいと思ったことから始まったという。

    「僕はある女性と知り合って友達になった。ある日彼女が言ってきた。じつは男だったのだと。その彼女の人生を聞いて、笑ったり泣いたりした。そしてこれこそアウトサイダーの主役キャラクターだと思ったんだ」

    男で生まれながら女へ変換するトランスセクシュアルの主人公と息子とのロード・ムービー。女性であるフェリシティ・ハフマンが体当りで熱演してアカデミー主演女優・アカデミー賞にノミネートされた『トランスアメリカ』はダンカンが生んだ秀作だ。

    「20年も家族と音沙汰なしだったというトランスセクシュアルの男女が、この映画のおかげで家族と連絡をとり合うようになったと言ってきた」
    と、嬉しそうに笑う気のイイ顔。いまも目に浮かぶ。

    頼もしい映画監督の登場だ。


    (c) 2006 Yuka Azuma

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