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  • 同級生は異邦人 No.13 日本に憧れるチリ人・サルバドル

    January 21st, 2008 by Sally

    私は2年前からチリ人の家族と同居している。すぐ隣のアパートにはその家族の兄弟や親戚もいるので、この場所はかなりチリ人住居率が高い。

    日本人の私には、チリと日本の共通点(地震が多いことや魚をよく食べることなど)や、チリに多くいる日系人の話などを持ち出して、親しみを込めて話しかけてくれる。

    中でも、同居のおばあちゃんの孫の一人、サルバドルは私と同じ大学生なので、よく話す。学校の話はもちろんのこと、彼は日本文化に非常に興味を持っているので、よく質問にくるのだ。

    ある日、サルバドルが私の部屋に来て、大島渚監督の映画『愛のコリーダ』を見たことがあるかと聞いてきた。

    ええっー、阿部定事件を描いたあの映画、いったい何を聞きたいんだ?

    ちょっと構えた私だったが、実際サルバドルが聞きたかったのは、事件のことでなく、バックで流れる日本風の音楽のことだった。

    サルバドルはミュージシャンの父を持つので、映画を見るとつい音楽の方に集中してしまう。『愛のコリーダ』でも、そこで流れる新鮮な音に強く魅かれたのだった。

    映画を見ていない私はわからないが、話を聞いているとどうも「琴」の音色らしい。その後、私は頼まれて日本語でサントラ盤を探したが残念ながら無かった。

    サルバドルはがっかりしたけれど、相当琴の音が気にいったらしく、琴のCDを買うと言っていた。

    このほかにも、日本のものに関すること、いろいろ聞いてくる。アニメや漫画について、対人関係について、あるいは宗教について。

    ある日、サルバドルの部屋に行ってみたら、たくさんの仏教や禅に関する本が。彼のマニアックな質問にさっぱり答えられない私は、「ここに行ってみたら?」と、ニューヨークにある仏教や禅の団体を検索してあげるのが精一杯だった。

    「どうして日本に興味があるの?」と彼に聞いてみたことがある。大学で日本人の友達がいることも大きいが、元々は彼のアイデンティティに関する葛藤からきていた。

    サルバドルは南米チリで生まれているけれど、母親はイギリス人、父方祖父はスペイン人、さらにルーツをたどるといろんな国籍の人が出てくる。親戚の多くはヨーロッパにいる。

    それから、彼の母親と父親は結婚はしておらず、父親はサルバドルが小さい時にニューヨークに住み着いてしまった。それからサルバドルは、一時的に父の所に住むことが何度かあった。

    そういう彼は、自分のアイデンティティが一体どこにあるのか?というのをずっと自問自答してきたそうだ。

    「日本人って何の迷いもなく『私は日本人です』って言えるでしょ、でも僕は『チリ人です』って言うのをためらうんだ。」

    「民族の血としてはいろんなのが混ざっているし、ニューヨークにも頻繁に来ていたせいで、チリの文化にどっぷりつかっているわけでもない。」

    日本にも、日本人以外の民族はいるし、ハーフの子どもたちだっている。でも、サルバドルは、自分のルーツと比べたら日本人ははるかに「混じり気がない」という。民族的にも文化的にも社会的にも。

    そして、生き方は多様化しているとはいえ、根底にある倫理や道徳の考え方は日本人に共通していて、多くを語らなくても通じるところがミステリアス、かつ魅力的なんだそうだ。

    「日本でずっと生まれ育った人なら、そういうこと当たり前すぎて気にもしないと思うけど、僕にとっては、日本という芯をみんなで共有している、人生の拠り所があるように見えるんだよね。」

    「自分にはそういう「芯」がない。ただ漂っているだけ。」とサルバドル。

    私は、ニューヨークで生まれ育ったポーランド人の友人が言っていたことに似ているな、と思った。

    「自分はポーランドとアメリカのどちらにも属しているんじゃなくて、どちらにも属していない。それが時々ものすごく寂しく感じる。」

    人は生来群れる習性があると考えると、どこにも属していないという気持ちは、確かに大きな孤独感、そして自己を認識できないという危機感すらあるだろう。

    アメリカ人のほとんどは移民とその子孫なので、サルバドルや私の友人のように、自分のアイデンティティを探し求める人は多いと思う。

    「自分はもちろん日本人になれないことはわかっているよ。でも、日本文化に大きく影響している仏教なんかを学んでいると、自分にも精神的な拠り所ができるようで落ち着くんだ。」と、サルバドル。

    こうして、一種憧れにも似た気持ちで日本を想う彼。時々、盲目的に日本を美化するので、そこは私がブレーキをかけるのだが、それだけひとつの土地に根ざした文化や人々に魅かれているのだろう。

    私は私で、サルバドルのおかげで、別な角度から日本を考えさせられる。彼とはアパートの上と下、そして学生同士ということで、これからもたくさん話をしようと思っている。

    ☆ サルバドルの生まれた国・チリ共和国(Republic of Chile)
    南米の西側、太平洋に面し南北に細くのびる国。1818年独立。人口1,645万人(2006年 世銀)、首都サンティアゴ。公用語はスペイン語で、全人口の88%がカトリック。2006月3月に初の女性大統領誕生。政治は比較的安定している。通貨はペソ。日本とは、経済分野を中心に古くから友好協力関係がある。

    *Data:外務省HPより


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